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GT500用カーボンプロペラシャフトは破断との戦い

2016.03.14

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©Shimpei Suzuki

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 皆様お元気でいらっしゃいますでしょうか? 不定期に掲載されます私、メカ好き“変態カメラマン”こと鈴木紳平のブログ。今回は公益社団法人 自動車技術会の主催によって開催されるモータースポーツのシンポジウムをレポートしたいと思います。このシンポジウムは“モータースポーツ技術と文化”というテーマのもと二輪・四輪の技術開発をテーマに対談などが行われます。講演の内容に沿った展示物もありかつては、スーパーGT 09規定時の風洞モデルや搭載エンジンの3メーカー同時展示などがあり大いに盛り上がりました。

 今年もMotoGPでチャンピオンを獲得したYAMAHA YZR-M1やダンロップの各カテゴリーのタイヤ、スバル/BRZ(GT300)のエンジンなどの展示がありましたが、注目はスーパーGT500クラス用の最新カーボンプロペラシャフトです。DTM(ドイツツーリングカー選手権)との規則統一によって新たに開発されたカーボンプロペラシャフト。私も実物を見たのはサーキットで1回だけ。今回はそれを間近に見れて写真も撮れてさらに触ってもいいという事で小躍りしながら参加しに行った次第です。

さぁ会場に到着です。MotoGP チャンピオンマシンを横目で見つつ一目散にカーボンプロペラシャフトへ向かいます。


ありました。三菱レイヨン製のGT500カーボンプロペラシャフト。美しいです。まさに日本刀のような妖美な魅力を感じざるを得ません。この写真では手前がミッション側、奥がエンジン側になります。


開発担当者に話を聞きもせず細部を見ていきます。白の矢印は回転方向。手前がエンジン側になります。


アルミ合金のフランジ部に誇らしげに刻印された“Made in japan”の文字。ぜひITR(ドイツのモータースポーツ統括団体)の方にも見てもらいたいです。


この白線はプロペラシャフトとアルミ合金で出来たフランジの接着位置を表すものです。これについては後ほど説明があります。


これはカーボンプロペラシャフトの素になる炭素繊維(7〜10ミクロン)です。これが、


このようなシート状になります。下が繊維が細く薄いシート、上が繊維が太く厚みもあります。これがカーボンプロペラシャフトの素のようです。


ここでふと、2008年に見たGT-Rのカーボンプロペラシャフトとは違うな、昔のはもっと繊維が見えていた気がするなぁ、なんて考えます。


 まぁいいかと中空になっている内部を覗きます。フランジ部に何かシールのようなものが貼ってあります。バランスウェイトか……、なんて考えながら定規で計測したり、かぶりつきで撮影していると背後から“何をしているんですか?”と声が聞こえます。


 声を掛けてくださったのはこのカーボンプロペラシャフトの開発者、三菱レイヨンの越畑雅信さん。この開発プロジェクトをNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)と共同で進められ、6ヶ月という短い期間で開発を達成し開幕戦の岡山をGT500全車ノートラブルで走りきらせた、その人です。



 せっかくの機会、そこで越畑さんに開発に至る経緯を直にお話しいただきました。
「2014年にGT500は4気筒2リッター直噴ターボエンジン(NRE)の採用、モノコックをはじめとする主要部品(EBパーツ)の共通化を行いました」
「まずエンジンですがDTMが使用するV8 4リッターエンジンよりNREの方が30パーセント程度使用回転域が高くなります。そこでまずDTMで使用されている2種類のカーボンプロペラシャフト(A・Bスペック)とNRE用にねじれ剛性(低回転域)と曲げ剛性(高回転域)をアップさせたCスペックを欧州のメーカーに作ってもらい台上テストしました」

「AスペックはNREの常用回転域である5000〜9000rpmの高回転域で破断、Bスペックも早々に破断し実走テストはCスペックのみで行いました。ただCスペックも実走テストでは路面の変化やタイヤのコンディション等で低回転域で破断、高回転域でもオーバーレブなどで破断し実際の使用には耐えられませんでした」
「この結果、Aスペックと同等の低回転域での性能と高回転域はCスペックを超える性能をもつカーボンプロペラシャフトをレース開幕まで6ヶ月という短い期間の間で三菱レイヨンとNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)との協力のもと新規開発(スペック1)することにしました」

「ここで破断の原因となる共振の説明をしたいと思います。皆さんテレビで人間の叫び声でグラスが割れるのを見たことがあると思いますが、あれと同じ現象がプロペラシャフトにも発生します」
「カーボンプロペラシャフトの性能の指標となるねじりと曲げ共振点のピーク値とエンジン回転数が同調すると破断が発生します」




「まず最初にエンジンの常用回転域を設定します。NREの場合は5000~9000rpmですので低回転域のねじれ共振点は5000rpm、高回転域の曲げ共振点は9000rpmになります。この共振点がプロペラシャフトの破断し易いポイントという事になります。一瞬回転数が通過するだけなら大丈夫ですが数秒でも同調すると破断に至る場合があります」

「まず最初の設計目標ですが曲げ共振点を10000rpm以上に設定しました。ただプロペラシャフトの特性上、曲げ共振点の半分のところにねじれ共振点が発生します。ここでは5000rpmになりますがそれでは破断の領域に入ってしまっていますので、いかに高回転域の曲げ共振点の回転数を10000rpm以上に維持しながら低回転域のねじり共振点の回転数を下げていくかがスペック1の最初の開発ポイントになりました。この相反する性能はカーボン繊維を使用する事でのみ達成可能な性能になります」


「スペック1は曲げ共振点を10000rpm以上、ねじり共振点を4500rpmに設定。パイプ径を85ミリで設計しました。もうちょっと太くした方が設計的には楽ですが共通モノコックの為プロペラシャフトが収まるトンネルの大きさを変更する事はで出来ず前記の数値となっています。使用したカーボン繊維はピッチ系炭素繊維と呼ばれる弾性率が高い繊維を使用しています」

「スペック1は実走テスト(1月セパンテスト開幕まで約2か月)の結果、走行を重ねていくとプロペラシャフト表面が剥離するという現象が発生しました。これはギヤ比が固定されているGT500ではコースによってどうしてもねじり共振回転数付近を使用せざるを得ない場合があり、繰り返し使うことで破断及び剥離が発生したとものと考えています」

「スペック1の対策品ですが開幕戦まで時間が無い為2つのスペックを同時に開発しました。スペック3は低回転域のねじり共振点をさらに下げたプロペラシャフト。スペック4は巻き付けたカーボンシートの積層間の強度を向上させたものです。スペック3は200rpmほどねじり共振点を下げる事に成功しましたが強度が低下。結果エンジントルクに耐えられず破断しました。スペック4はねじり共振の数値はほぼ変わらないが強度が大幅に向上し、連続走行にも耐えうるカーボンプロペラシャフトになりました」

「結果これが基本スペックとなり2014年の開幕戦から今日まで2年間GT500で使用されています。耐久性は3000kmを設定しています。ただ連続走行出来るようになると別の問題が発生しました。それはねじり共振によるプロペラシャフトとフランジの接着部の破損です。この問題に対しては接着剤の改良、接着部の形状変更などによって解決しています」




「2年間カーボンプロペラシャフトが破断してリタイヤとなった事は一度もありませんが、当初の目標としたねじり共振4500rpm、曲げ共振10000rpmは達成出来ていません」
「現在、耐久距離5000kmを目指して開発していますがこれにはねじり共振点の改善がポイントとなります。現在は4700rpmですが全体のバランスを見ながらこの数値をいかに下げるかがポイントになると思われます」


 皆さんカーボンプロペラシャフトは高回転域で回れば回るほど破断し易いと思いがちですが実際は違います。富士スピードウェイのストレートを6速全開300kmで走行するのは安心して見ていられます。それは使用出来るエンジン回転数には上限がありそれは設計時の高回転域での曲げ共振点から離れたところにあるからです。
 逆に一番心配なのはセーフティカーが導入された時です。エンジンを低回転で回して走行しなければならず、この回転数は低回転域のねじり共振点に非常に近いところにあるからです。

 最後に越畑さんはこんな話をしてくれました。

「GT500が09規定の頃に一度だけ現在の製造技術で製作したカーボンプロペラシャフトを台上テストした事がありました。この時の知見が今回の開発の大きな足掛かりになっています。そして開発中は時間節約の為完成したばかりのプロペラシャフトをガンダムのガンキャノンのように両肩に担いで新幹線に乗り試験場まで持って行った事もありましたね。希望としては2019年にDTMと規則統一してもらって日本初の共通パーツ(EB-J)としてドイツに輸出してDTMで使ってもらいたいと思っています」

 当時セパンテストで取材中だった私は“本当に開幕戦までに間に合うのか?開発は大丈夫なのか?”といった空気がパドック中(ホンダ勢は除く)に蔓延していたのを思い出します。

 14年規定になりシーズン中の空力開発の禁止や共通パーツの導入など車両開発という点では物足りない部分もありますが、共通パーツであるがゆえに今回のような開発の話も聞けたりする事を考えると14年規定も捨てたものでもないような気がします。ただ規則統一、開発の凍結によって人々の創意工夫を発揮出来る場所が少なくなり、日本のモノづくりにレース界が貢献出来ない、人材を育成出来ない、という現状はいかがなものかとも思います。皆様はどう感じていらっしゃいますでしょうか?

(Shimpei Suzuki)


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