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<本誌連動企画その2>トムスはなぜマカオで負けた?

2009.12.09

史上初のマカオ3連覇を目指したトムスは2009年、フォルクスワーゲン(VW)のエドアルド・モルタラに負けた。予選はエース、マーカス・エリクソンがポールポジションを獲得し順調に見えたが、レースウイークが進むに連れて、徐々に劣勢が明らかになった。

決勝レースでは、VWの2台からは約10秒も離された。

ここ2年、圧倒的な強さを誇ったトムスはなぜマカオで負けたのか?

エリクソン担当のトムス山田淳エンジニアが語る09年マカオGP。
本稿では、彼自身の言葉で4日間の激闘を振り返ってもらった。

                   Photo/TOYOTA motorsport


戦前予想:警戒すべきライバルは、シグネチャーとハイテック

昨年も優勝候補だったモルタラ。Photo/CGPM

昨年も優勝候補だったモルタラ。Photo/CGPM

「クルマを送る前の10月15日、マカオ仕様の最終的なバランスチェックを富士スピードウェイで行なった。タイヤはヨコハマだけどマカオ仕様ではなく、ギヤレシオもマカオ仕様ではない。でも、ライドハイト、サスペンション、エアロはマカオ仕様。昨年のウチのエアロはダウンフォースがほぼゼロだったので、今年はややダウンフォースをつけて臨んだ」
「エントリーリストで気になったのは、強いドライバーが意外に多く参戦するなあと。(エドアルド)モルタラなんて、昨年時点で優勝候補だった。マカオが2~3回目というドライバーも多かった。チームで気になったのはシグネチャーとハイテック。カーリンやARTはあまり気にしていなかった。やってくることはだいたい分かっていた。まあ、カーリンの(ブレンダン)ハートレイやARTの(ジュール)ビアンキは少し気になったので、木曜日に走りを確認しようと思った」

11月19日(練習・予選1日目):予想外の寒さも、滑り出しは順調

平年25℃前後のところ、09年は14~15℃と寒かった。Photo/CGPM

平年25℃前後のところ、09年は14~15℃と寒かった。Photo/CGPM

「先乗りしたマネージャーから例年と違いマカオは寒いと聞いていて、現地ではマフラーや手袋をしている人も見た。以前からの傾向で、トヨタの1AZ-FEエンジンは水温が上がってもパフォーマンスダウンが割りと少ない。対して、ヨーロッパのチーム/エンジンは熱に対するタフさがない。気温が上がると彼らは、チムニーダクトを装着したり、エンジンカバーにルーバーを切ったり、空力の損失を承知で穴を開ける。そうなるとこちらは有利。少し暑くてもウチは開口部をふさいでいたし。それが(今年は)あの寒さでしょう?」
「初日は抑える予定でした。でも、マーカスはいって(速く走りすぎて)まわりを引っ張っちゃった。無理するなと言い続けていたし、最初から飛ばすのが、なぜダメなのかも説明していた。4日間も精神的に張り詰めた状態を保つのは、やはりたいへんですから。だけど、ドライバーにしてみれば実際にタイムを出さないと自信が持てないんでしょう。いってしまった以上は仕方がない。心配だけれど、彼なら4日間を乗り切れると信じました」
「練習ではいきなり、12秒台目前の2分13秒台。低気温がエンジンに好影響を与えて、路面の改修もタイムアップに貢献したんだろうけれど、速かったね。予選は2分11秒台に入り(編注:路面が日を追うごとに速くなる傾向にあるギアサーキットは、予選タイムよりも決勝ファステストラップの方が速い場合もある。08年の最速タイムは2分11秒台中盤)、マーカスはトップタイム。5、6番手でよかったんだけれど。上位ドライバーの顔ぶれは予想どおり。僅差だったけれど、こちらはミドルダウンフォース(MDF)のエアロで、まだまだ余裕はあった。最高速はトップから約10km/h落ちだったけれど、スリップを使えたかどうかにもよるから心配ではなかった」

・練習1回目
1番手 マーカス・エリクソン(トムス・トヨタ)      2'13"035
2番手 エドアルド・モルタラ(シグネチャー・VW)  2'13"584
3番手 ブレンダン・ハートレイ(カーリン・VW)      2'13"863
・予選1回目
1番手 マーカス・エリクソン(トムス・トヨタ)      2'11"811
2番手 ダニエル・リッチャルド(カーリン・VW)      2'11"848
3番手 エドアルド・モルタラ(シグネチャー・VW)  2'11"903

11月20日(練習・予選2日目):驚速モルタラ! トムスの対策は?

Photo/CGPM

Photo/CGPM

エリクソンがPPを獲得。ここまでは順調だった。Photo/CGPM

エリクソンがPPを獲得。ここまでは順調だった。Photo/CGPM

「練習でマーカスはモルタラから0.7秒近く遅れた。この差はウチが決勝レースを想定したローダウンフォース(LDF)仕様のエアロで臨んだからで、その確認作業をしなければモルタラと同等のタイムを出せていた。最高速は下がったけれども、そんなものかなあと思っていた。単独で走った場合のMDFとLDFを比べると、たしかに後者が少し速いけれど単走なら大きな差はないんです。だけど、スリップを使った時のLDFの上がり代大きい」
「MDFに戻して臨んだ予選ではポールポジションを獲ったけれど、少し誤算があった。山側のセクター2ではマーカスも1分18秒6を出したけれど、モルタラは1分18秒0。プッシュすれば1分18秒2を出せるとマーカスは言っていたけれど、0.2秒差は小さくない。スタートで前に出られたら逃げられちゃうとまでは思わなかったけれど、ラクには勝てないと思った。もっとも、マーカスはセクター3がずっと速かったし、最終コーナーが速いからスリップに確実に入れる。LDFのエアロならマンダリン手前で抜ける感じでいける。どうせスタートではスリップを使われて抜かれるんだし、だったら2番手を走っていて、最後に前へ出て優勝というストーリーを描いていました」
「山側を速くしようと、変にエンジニアが焦ってもダメ。セッティングを変えてもテストする時間はないし、最初からこういうものと考えたほうがいい。最後で抜くことも、レースに勝つためのひとつの戦略と割り切ったんです。マーカスも、セクター3は速いから大丈夫だと言っていた」

・練習2回目
1番手 エドアルド・モルタラ(シグネチャー・VW)  2'10"593
2番手 ダニエル・リッチャルド(カーリン・VW)       2'11"006
5番手 マーカス・エリクソン(トムス・トヨタ)      2'11"285

・予選2回目
1番手 マーカス・エリクソン(トムス・トヨタ)      2'10"042
2番手 ジャン-カール・ベルネイ(シグネチャー・VW)  2'10"081
4番手 エドアルド・モルタラ(シグネチャー・VW)  2'10"234

11月21日(予選レース):ライバルの速さは、マンダリンがポイント

予選レースを制したベルネイ。Photo/CGPM

予選レースを制したベルネイ。Photo/CGPM

「予選レースは荒れた。スタート直後にSCが入り、まともに走ったのは10周のうち4、5周かな? それはともかく、マーカスのスタートは良くなかったし、ベルネイに一度は抜かれたけれど再び抜き返してリスボアへ先頭で入った。SC明けのリスタートではベルネイを0.6秒以上は離していて、いけると思った。ところが、マンダリンで追いつかれて、あっさりと抜かれた。マーカスがシフトミスしたのかと思ったくらい」
「マンダリンの高速コーナーは、ステアリングの舵角で生まれる速度差のほかに、実はエンジンのねじれで生まれる速度差もある。鉄ブロックの3S-GEではそうでもなかったけれど、アルミブロックの1AZ-FEでマカオを戦った時、初めてそれが気になった。ブロック剛性という要因もマンダリンの通過速度に影響する。相対的にVWのほうがパワーロスが少ないんでしょう。もちろん、シャシーのセットも関係するから、エンジンだけの話ではないですよ」
「抜かれたあとの山側、セクター2ではベルネイに約1.7秒も一気に離された。マカオのSCは速度が遅いので、マーカスにはなにしろタイヤを温めておけと言っていたんだけれど、十分ではなかった。それでもモルタラの追撃をしのぎ、表彰台には立たせてあげられた。それに決勝レースを考えると、スタートではベルネイのスリップを使える。LDFのエアロでマンダリンからリスボアにかけて抜き、そうすればセクター2は迫られても抜かれないから、あとはセクター3で突き離して逃げきれると、そう見ていた」

・予選レース                           Time/Best Lap
優勝 ジャン-カール・ベルネイ(シグネチャー・VW)    31'52"192/ 2'10"906
2 位 マーカス・エリクソン(トムス・トヨタ)            +0"271/2'11"405
3 位 エドアルド・モルタラ(シグネチャー・VW)        +1"094/2'10"977
4 位 バルテリ・ボタス(ARTグランプリ・メルセデスHWA) +1"587/2'11"063

11月22日(決勝レース):トムスの敗因は、運を含めた複合的なもの

Photo/GCS

Photo/GCS

「(マーカスが最初から飛ばしすぎていた)心配が現実になった。お腹を壊し、ウォームアップ後に医師の診断を受けたんだけれども原因はストレス。19歳の子供だし、精神的にはやっぱり弱っていたんだね」
「それに運もなかった。スターティンググリッドへつく周回で、新品の左リヤタイヤが異物を拾ってパンクした。当然状態のいいユーズドに履き替え、クルマのバランスを考えて左フロントも状態のいいユーズドに履き替えざるをえなかった」
「決勝レースはスタートで大失敗して、すぐ多重衝突があって赤旗中断になった。そのあとのマーカスはもう、グリッドで僕と目を合わせてくれなかった。またスタートで失敗したから、気まずかったんだと思う。でも、SC先導後のリスタートで、3番手のボタスを抜いて上位2台に食いついていけば、市街地コースのマカオではまだチャンスがあると思っていた。でも、ボタスを抜けず、描いていたストーリーが崩れた」
「まだ可能性はあると思っていたのは15周のうち6周目まで。マーカスはジリジリと遅れ、後ろから徐々に迫られ始めた。左側2輪はユーズドタイヤだったし、ウォームアップで訴えていたオーバーステアを(アンダー方向に)修正したことも原因。レース後にタイヤを見たら、アンダーステアに対処できておらず、完全に壊れていた。マーカスはアンダーステアなりに運転することが苦手なんです」
「レースは途中から見ているのがつらくて、レース後は誰も話しかけてくれるなという心境だった。一方で、レース途中には来年のマカオ対策を考えていた自分もいた。マーカスや井口には悪いけれど。シグネチャーの速さの理由もなんとなく分かった。ただ、モルタラが出したセクター2の1分18秒0というのは、足まわりのセッティングだけで出せるタイムじゃない。VWのエンジンが本当に素晴らしいんだと思う。1AZ-FEの開発をさらに進めないと、来年のマカオGPも苦戦すると思う」

山田エンジニアの目はすでに2010年のマカオGPに向けられている。

・ウォームアップ
1番手 エドアルド・モルタラ(シグネチャー・VW)       2'10"472
2番手 マーカス・エリクソン(トムス・トヨタ)           2'10"523
3番手 ステファノ・コレッティ(プレマパワー・メルセデスHWA) 2'10"565
4番手 ダニエル・リッチャルド(カーリン・VW)            2'10"713

・決勝レース                           Time/Best Lap
優勝 エドアルド・モルタラ(シグネチャー・VW)        53'07"769/2'10"732
2 位 ジャン-カール・ベルネイ(シグネチャー・VW)       +1"146/2'10"792
3 位 サム・バード(ARTグランプリ・メルセデスHWA)      +10"982/2'10"995
4 位 マーカス・エリクソン(トムス・トヨタ)             +14"988/2'11"279


                                   Text/Kojiro Ishii

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